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2004年 11月 23日
日中首脳会談が1年1ヶ月ぶりにチリ・サンチアゴで行われた。
各所で報じられているのは、胡錦涛主席の靖国問題に関する発言だ。 「現在の中日関係の政治停滞と困難は、日本指導者の靖国参拝が原因だ」 これは、例えば昨年10月バンコクで会談した際の、 「歴史を鑑(かがみ)に、戦争被害国の国民感情を傷つけないことが重要だ」 という発言と比較すると、直接、靖国に言及している点が注目されている。 日本政府内にはこれを重く受け取る向きがあるようだし、一部報道は歴史問題を日中関係の足かせとなるとして大きく取り扱っている。(例えば、朝日社説11/23付) こうみると、歴史問題のボールが、再び直球で日本に投げ込まれただけのように見える。けれども、そう単純にとらえるのは、どうも違うんではないかと僕は感じる。というのも、会談の前後を良くみてみると、胡主席側にも言及せざるを得ない背景があったと思うからだ。ちょっと長くなるけど、その背景と意味について考えてみよう。(追記:見出しをつけてみました) 1.胡主席は会談実現と引き換えに日本の譲歩が欲しかった 歴史問題を盾に日本との首脳会談を避けてきた中国は、会談実現の前提として、日本の何らかの譲歩を求めていた。毎日によれば、「中国はここ数カ月、靖国問題を解決してくれるなら、他の問題で日本に大幅に譲歩すると日本サイドに伝えていた」のだという。(毎日) しかし中国原潜の領海侵犯発覚が、そのシナリオを狂わせた。会談を拒みきれなくなったのだ。胡主席は日本側がどう出るのか見極められぬまま、会談に赴いた。(東京) 胡主席は今年9月に軍事委員会主席のポストを得て、党の総書記、国家主席とあわせて3権を掌握したばかり。今は国内の基盤固めの時期だけに、外交面での譲歩は難しい。 特に日本に対しては、中国国内で「弱腰」と受け止められる対応は、体制維持のためにも到底出来ない。 今回の胡主席の発言は、こうした状況の中で出てきたもの。本来であれば「会談実現」と引き換えにするつもりだった日本の「譲歩」。それが得られない。表面的には日本に一定のインパクトを与え、実質的には国内向けの「守りの一手」。この発言はそういう文脈で捉えることができる。 2.中国国内報道が暗示するもの これは、中国国内の報道を見ても良く分かる。中国メディアは他の首脳との会談を速報したにもかかわらず、日中会談に限っては、会談後半日たって、しかも限定的に報じた。(中国情報局) 新華社の場合、首相が靖国問題について「中国側の立場を十分に理解している姿勢を示した」と報じているが、首相が参拝継続の姿勢を変えず、議論は平行線をたどったことについては触れていない。(毎日) この情報コントロールのされ方をみると、中国現政権の微妙な立場を反映しているように見える。仮にあの発言が、日本に対する「攻めの一手」だったとすれば、こうした報道にはならないはず。また、世論のコントロールが容易であるならば、こうした情報統制はなされないだろう。 中国の政権と世論の間にある微妙な緊張関係。日本に対する歴史問題のカードは、その微妙なバランスの中から繰り出される。中国政府にとって便利な対日カードであることには間違いないのだが、使い方には実は神経を使う。日本は、そういった面も押さえながら、このカードへの対処の仕方を考えたほうが良さそうだ。 3.日朝首脳は急所を衝き合うのは避けた――本当は交渉のテーブルにつきたい? さて、この会談が必ずしもストレートパンチの応酬ではなかったことは、他の状況からも読み取れる。 yodaway2さんが指摘されているように、この会談で胡錦涛主席は、「反ファシスト勝利60周年」という表現を使った。直接的な「反日」表現を回避した形だ。 一方、首相は中国原潜の領海侵犯に関しての直接的抗議は避けている。「今後、再発防止が特に重要だ」と述べたのに対し、胡主席からの直接的言及は無かったもののそれ以上の追求は行っていない。 また、東シナ海のガス田開発の問題では、排他的経済水域を侵す可能性があるとして、詳しいデータの提供を求めたが、中国側は具体的な情報提供をしていない。 日本にとって決して満足行く結果だとはいえない。中国にとっても、同様だろう。ただ、よくも悪くも両首脳は1年ぶりの大舞台でダンスを踊りきった。相手側の急所中の急所を衝くのは巧みに避け、相互協調の重要性を確認しつつ、互いに国内向けに歴史問題での「名」を取った。交渉はこれからだと見たほうがいいのではないか。 結論.歴史カードの解決は最優先事項でない ――先入観や呪縛から離れて、現実的な交渉をはじめるべし 交渉を進めていく際に歴史カードは、これを取り除かないと交渉が進まないというのは、一面的な考え方のように思う。以前の記事にも書いたけれど、そもそも歴史認識は、同じ事象をとっても見る側によって見方・捉え方が異なる。一方の考え方に完全に準じるという事は本来的に難しい。一方が妥協すれば、一方の「世論」には必ずしこりが残る。「政権」にある者は、ある意味、そういうものだという諦観を持って交渉に当たる必要がある。 しかしながら、そうしたゼロ・サムの世界にあるものだということが分かっていながら、中国政府はこの問題をたびたび持ち出してきた。しかもあるときは靖国参拝全体を問題にし、あるときはA級戦犯の合祀を問題にしたりと、その尺度は極めて恣意的だ。また繰り返し書いているように、この問題は大いに国内対策として用いられてきた経緯がある。 それだけに、「これさえ取り除けば」という思考は短絡的に過ぎる。中国政府の交渉戦術にはまってしまうことになるからだ。 加えて、この国内対策としてのカードが、中国政府にとっても手に余る場合があることは、今後何らかの政治決着を見る可能性を含んでいるように思える。 さらに、両国にとっての問題は、歴史認識だけではない。東シナ海ガス田の問題、尖閣諸島や沖ノ鳥島の問題、原潜不法侵入の問題。いずれも広い意味で安全保障に関わる問題だ。これらももとは中国が持ち出したもの。ただこれらは、日中二国間だけでなく、台湾・朝鮮半島・ロシアそして米国の思惑と複雑に関わりあってくる。こちらのほうが、両国にとっては現実的に対処していかねばならない課題だ。 日本が、どう対処していくべきかは、現状を分析した上で、別途考えていきたい。 テーブルの上にカードは並べられている。それが1枚だけではないのは確かなのだ。 * * * ↓ここに参加してます。共感していただける方はクリックをお願いします。 人気blogランキング
by rakurakuonsen
| 2004-11-23 17:49
| 中国
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